JP7VTFの落書き帳

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トロイダルコアのAL値・AT値

本ページではトロイダルコアを用いてインダクタを設計するうえで使用する指標であるAL値およびAT値について記します。AL値は巻数の自乗あたりのインダクタンスを表します。またAT値は加えることのできる起磁力を表します。AT値、AL値を用いると、トロイダルコアの寸法値や透磁率を用いることなくインダクタを設計することが可能になります。なお、この内容は参考文献1からAL値、AT値の内容についてをまとめたものです。

1. 理論的な計算式

初めに計算に用いるトロイダルコアのモデルを示します。図1において、コアの内径をa、コアの外径をb、コアの厚みをt、巻き数をNとします。また、コアの中心から半径rの円周を図中の向きでたどる経路を経路Cと定義します。電磁気量として、真空中の透磁率\mu_0、比透磁率\mu_r、巻線を流れる電流をI、経路C方向の磁束密度をB、磁界をH、コア内の磁束を\phi、コイルと鎖交する磁束を\Phiとします。

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図1:使用するモデル

経路Cにおいてアンペールの法則を適用すると(1)式が成り立ち、HBを求められます。

\begin{align}
\oint_C H\mathrm{d} l &= NI \\
2 \pi r H &= NI \\
H &= \frac{NI}{2 \pi r} \tag{1} \\
B &= \mu_r \mu_0 H \\
&= \frac{\mu_r \mu_0 NI}{2 \pi r} \tag{2}
\end{align}

1.1 AL値の導出

経路Cの方向の磁束\phiは(2)式より(3)式で表わされます。

\begin{align}
\phi &= \int_{0}^{t} \int_{a}^{b} B \mathrm{d} r \mathrm{d} \tau \\
&= \frac{\mu_r \mu_0 NIt}{2 \pi} \int_{a}^{b} \frac{\mathrm{d}r}{r} \\
&= \frac{\mu_r \mu_0 NIt}{2 \pi} \left[ \mathrm{ln} |r| \right]_{a}^{b} \\
&= \frac{\mu_r \mu_0 NIt}{2 \pi} \mathrm{ln}\frac{b}{a} \tag{3}
\end{align}

このトロイダルコアのインダクタンスLは、定義より(4)式となります。

\begin{align}
L &= \frac{\Phi}{I} \\
&= \frac{N \phi}{I} \\
&= \left( \frac{\mu_r \mu_0 t}{2 \pi} \mathrm{ln}\frac{b}{a} \right) N^2 \tag{4}
\end{align}

ところで、AL値A_Lは以下の式のように定義されます。

\begin{align}
L &= A_L N^2 \tag{5}
\end{align}

(4)式と(5)式を比較すると、

\begin{align}
A_L &= \frac{\mu_r \mu_0 t}{2 \pi} \mathrm{ln}\frac{b}{a} \tag{6}
\end{align}

となり、トロイダルコアのAL値が求まります。

1.2 AT値の導出

実際の磁性体では、磁界Hの増加に対し磁束密度Bの増加量は飽和していきます(磁気飽和)。(6)式では比透磁率\mu_rを定数と仮定しており、磁気飽和が生じていない領域において成り立ちます。すなわち、コア内の磁束密度は飽和磁束密度以下であるときに(6)式が成り立ちます。

コア内の磁束密度はコア中心からの半径に依存し、半径が最も小さい時に磁束密度は最大となります。これは、r=aとなるときであり、この時の磁束密度B_{max}

\begin{align}
B_{max} &= \mu_r \mu_0 \frac{NI}{2 \pi a} \tag{7}
\end{align}

磁束密度B_{max}は起磁力NIに比例することから、NIには磁気飽和が生じない上限値が存在します。起磁力の上限値についてNI = \left(NI\right)_{max}、この時の磁束密度は飽和磁束密度に等しいことからB_{max} = B_{sat}と置くと以下が成り立ちます。

\begin{align}
B_{sat} &= \mu_r \mu_0 \frac{\left(NI\right)_{max}}{2 \pi a} \\
\therefore \left(NI\right)_{max} &= \frac{2 \pi a B_{sat}}{\mu_r \mu_0} \tag{8}
\end{align}

このときの\left(NI\right)_{max}をAT値と呼び、このトロイダルコアに加えることのできる起磁力の上限を示す指標となります。

2. 実際の値

ここでは例として、アミドン社のFT-50(#43)について計算を行ってみます。アミドン社のトロイダルコアのAL値、AT値について計算された表が参考文献1に詳しく記載されていますので、詳しくはそちらを参照してください。なお、この文献の巻中の表では組成の異なる各材料のB-H曲線から読み取った飽和磁束密度で、巻末の表では組成に依らずフェライトコアの飽和磁束密度を0.1~\mathrm{T}一定として計算されています。巻末の表に関しては、どの組成の材料においても飽和磁束密度がだいたい0.1~\mathrm{T}くらいになるため、一定にしているものと思われます。

FT-50の寸法は、内径2a=7.15~\mathrm{mm}、外径2b=12.7~\mathrm{mm}、厚さt=4.9~\mathrm{mm}となります。また、比透磁率\mu_r=850であり、真空中の透磁率\mu_0=4 \pi \times 10^{-7} ~ \mathrm{H/m}を合わせて代入すると、

\begin{align}
A_L &= \frac{\mu_r \mu_0 t}{2 \pi} \mathrm{ln}\frac{b}{a} \\
    &= \frac{850 \times \left(4 \pi \times 10^{-7} \right) \times \left(4.9 \times 10^{-3} \right)}{2 \pi} \mathrm{ln}\frac{\left(12.7 \times 10^{-3} \right)/2}{\left(7.15 \times 10^{-3} \right)/2} \\
& \cong 478.5~\mathrm{nH/turn^2}
\end{align}

となります。飽和磁束密度をB_{sat}=0.1~\mathrm{T}とすると、

\begin{align}
\left(NI\right)_{max} &= \frac{2 \pi a B_{sat}}{\mu_r \mu_0} \\
&= \frac{2 \pi \times \left(7.15 \times 10^{-3} \right) / 2 \times 0.1}{850 \times 4 \pi \times 10^{-7}} \\
& \cong 2.10 ~\mathrm{A \cdot turn}
\end{align}

となります。

3. まとめ

本ページではAT値、AL値の算出法についてまとめました。なお、実際のコアのAT値、AL値についてはばらつきがあるため、より厳密にインダクタンスの値を定めたい場合は測定しながら巻線を巻く必要があります。

4. 参考文献


  1. 山村英穂:“トロイダル・コア活用百科”, pp14-59, CQ出版社(1983)