トロイダルコアのAL値・AT値
本ページではトロイダルコアを用いてインダクタを設計するうえで使用する指標であるAL値およびAT値について記します。AL値は巻数の自乗あたりのインダクタンスを表します。またAT値は加えることのできる起磁力を表します。AT値、AL値を用いると、トロイダルコアの寸法値や透磁率を用いることなくインダクタを設計することが可能になります。なお、この内容は参考文献1からAL値、AT値の内容についてをまとめたものです。
1. 理論的な計算式
初めに計算に用いるトロイダルコアのモデルを示します。図1において、コアの内径を、コアの外径を、コアの厚みを、巻き数をとします。また、コアの中心から半径の円周を図中の向きでたどる経路を経路と定義します。電磁気量として、真空中の透磁率を、比透磁率を、巻線を流れる電流を、経路C方向の磁束密度を、磁界を、コア内の磁束を、コイルと鎖交する磁束をとします。
経路Cにおいてアンペールの法則を適用すると(1)式が成り立ち、、を求められます。
1.1 AL値の導出
経路Cの方向の磁束は(2)式より(3)式で表わされます。
このトロイダルコアのインダクタンスは、定義より(4)式となります。
ところで、AL値は以下の式のように定義されます。
(4)式と(5)式を比較すると、
となり、トロイダルコアのAL値が求まります。
1.2 AT値の導出
実際の磁性体では、磁界の増加に対し磁束密度の増加量は飽和していきます(磁気飽和)。(6)式では比透磁率を定数と仮定しており、磁気飽和が生じていない領域において成り立ちます。すなわち、コア内の磁束密度は飽和磁束密度以下であるときに(6)式が成り立ちます。
コア内の磁束密度はコア中心からの半径に依存し、半径が最も小さい時に磁束密度は最大となります。これは、となるときであり、この時の磁束密度は
磁束密度は起磁力に比例することから、には磁気飽和が生じない上限値が存在します。起磁力の上限値について、この時の磁束密度は飽和磁束密度に等しいことからと置くと以下が成り立ちます。
このときのをAT値と呼び、このトロイダルコアに加えることのできる起磁力の上限を示す指標となります。
2. 実際の値
ここでは例として、アミドン社のFT-50(#43)について計算を行ってみます。アミドン社のトロイダルコアのAL値、AT値について計算された表が参考文献1に詳しく記載されていますので、詳しくはそちらを参照してください。なお、この文献の巻中の表では組成の異なる各材料のB-H曲線から読み取った飽和磁束密度で、巻末の表では組成に依らずフェライトコアの飽和磁束密度を一定として計算されています。巻末の表に関しては、どの組成の材料においても飽和磁束密度がだいたいくらいになるため、一定にしているものと思われます。
FT-50の寸法は、内径、外径、厚さとなります。また、比透磁率であり、真空中の透磁率を合わせて代入すると、
となります。飽和磁束密度をとすると、
となります。
3. まとめ
本ページではAT値、AL値の算出法についてまとめました。なお、実際のコアのAT値、AL値についてはばらつきがあるため、より厳密にインダクタンスの値を定めたい場合は測定しながら巻線を巻く必要があります。