3.5 MHz 5W シングルエンドE級アンプの実験
現在、当局では3.5 MHz CWトランシーバの製作を進めています。今回、終段増幅器となる5 WシングルエンドE級アンプについて実験を行ったので記します。
1.回路定数の決定
E級アンプの設計式・設計法には様々なものがあります。以前の記事1では、負荷電流は基本波のみであるという近似を元にした計算式について記しました。しかしながら、この式を用いて設計を行うと、私の実験の範囲では、出力電力が要求値に比べ小さくなる傾向にあるようです。そこで、今回は他の文献に示される定数表2を用いて設計を行うことにしました。先に示した計算式は負荷電流は基本波のみであるという大胆な近似を導入して得られた式であるのに対して、後に示したものは数値解析により求めた回路定数を用いて設計を行うものとなっております。 今回は文献2の"Table 1"において、の値を用いて設計を行いました。表中の値について、各回路定数について解くと以下が得られます。なお、回路定数を表す文字は図1のように定義されており、出力電力を、周波数をとしています。
さて、出力電力を、周波数を、電源電圧をとすると、以下の計算値が得られます。なお、今回はFETを使う予定ですので、は0として計算できます。
また、E級アンプ側から見ると負荷抵抗がとなるようにトランスを用いてインピーダンス変換を行う必要があります。インピーダンス変換トランスの巻数は下式を満たします。
について解くと下式となります。
今回はトランスのコアとしてFT-50-43を使うことにしたのですが、このトランスに巻けそうな巻数としては、としたとき、
があります。
2.実装と測定結果
今回は手持ちの部品を用いて実験を行いました。図2に回路図を示します。スイッチング素子としては東芝セミコンダクターの2SK4017(秋月電子で30円3)を用いました。ゲートドライブには74HC04を用いています。また、としてはのチョークコイル、としては単三電池にの銅線を13回巻き付けた空芯コイルを用いています。コンデンサについては抜き差しができるようにピンヘッダを介して実装しています(3.5 MHzくらいなら配線による影響は少ないかな、という判断から)。
参考文献2の設計を用いても、測定値がぴったり要求値通りにはならず、調整が必要となります。このため、、については、MOSFETのドレイン電圧の調整や出力電力を調整した結果、が最適値となりました。についてもコイル長を調整しています。実際に作成した回路を図3に示します。
図4に最適化後のドレイン電圧、負荷抵抗電圧のオシロスコープ観測波形を示します。ドレイン電圧を見ると典型的なE級アンプのドレイン電圧波形に近いように思われます。また負荷抵抗電圧は正弦波的になっています。
加えて、図5に減衰後の出力電力のスペクトルを示します。今回はLPFを入れずに観測を行っているため、高調波成分が目立ちます。
なお、市販のSWR/パワーメータを用いて出力電力を測定したところの出力が得られました。
3.今後の課題
E級アンプを運用するにあたっては、その高調波が問題となります。今回の実験では出力にLPFを挿入しなかったため、負荷抵抗に出力される高調波成分が大きくなりました。今後はLPFを用いて高調波の抑制を図ります。
4.まとめ
- シングルエンドE級アンプの試作を行ない、の出力に成功した。
- E級アンプに負荷を直接つないだ場合、高調波成分が大きいことを確認した。
- 次の実験ではLPFを挿入し高調波の抑制を図る予定である。
5.参考文献・ページ
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Nothan O. Sokal, “Class-E RF Power Amplifiers,” QEX pp.9-20, Jan/Feb 2001.↩